こんにちは!西伊豆・獅子浜を拠点に活動している、練習専門ダイビングガイド『ボイヤンシー』の佐野です。
ダイビングの基本姿勢といえば「水平トリム」。
初心者の方は「難しいから、練習していけばそのうちできるようになるはず……」と思いがちですが、ハッキリ言います。
そのままでは、いつまで経ってもできるようにはなりません!
実は、水平トリムが安定しないのには明確な物理学的理由があります。
いくらフォームを練習しても、器材が生み出す「物理的なバランスの悪さ」を解消しない限り、水平を保つのは不可能に近いのです。
今回は、物理の力を使って「勝手に水平トリムがとれるようになる方法」を解説します。
水中で止まる姿勢は「物理」で決まっている
水中の物体が、傾いても元の姿勢に戻ろうとして安定することを物理学で「静的安定」**といいます。
ダイビングにおいて「力を抜いた時にどの姿勢で止まるのか」を知ることは、上達への近道です。
この安定状態は、重心(重さの中心)と浮心(浮力の中心)が、垂直に一列に並んだときに起こります。
これは物理法則であり、個人のスキルの問題ではありません。
なぜ標準装備は「直立」してしまうのか
一般的なレンタル器材や標準的な装備では、この静的安定が「立ち姿勢(直立)」になるよう設計されています。これには理由があります。
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水面での安全性: PADIなどの指導団体では、初心者が水面で顔を出しやすいよう、直立姿勢になりやすい装備を推奨しています。
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講習の効率: インストラクターのデモンストレーションを見やすく、体がひっくり返りにくい(安定する)ためです。
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スキルの前提: 講習でおなじみの「フィンピボット」ができるのも、装備が直立で安定する設定だからこそ可能です。
ライセンス取得後に訪れる「矛盾」
問題はここからです。
ライセンス取得後、装備の設定は「直立用」のままなのに、ガイドからは「水平トリムをとって」とアドバイスされるようになります。
立ち泳ぎのままだと、フィンを蹴るたびに浮いてしまったり、中性浮力が取れているのか判断しにくかったりするためです。
しかし、「直立するように作られた装備」で水平になろうとするのは、おきあがりこぼしを無理やり横に倒し続けるようなものなのです。
上手な人がやっているのは「擬似トリム」?
標準的な装備でも、上手なガイドやベテランは水平に泳いでいるように見えます。
しかし、彼らの多くは「物理的に安定している」のではなく、常に動き続けて姿勢を維持しているor若干の斜め姿勢でBCDの空気の位置を偏らせて対応しているのです。
初心者が足をバタバタさせて姿勢を保とうとするのに対し、上級者は頭の位置を細かく変えたり、腰を折ったりして、常に「直立しようとする回転力」を打ち消し続けています。
もしくは、若干頭を下げ気味にして浮心が足側に移動するようにして打ち消します。
いわば、筋力とテクニックで物理に抗っている状態です。
理想は「力を抜けば水平」になる装備
もし、物理的に「水平姿勢で静的安定」が起こるように設定できれば、力を抜いて放っておくだけで勝手に水平トリムになります。
その代表格が、背中側に浮力袋がある「バックフロートタイプ」のBCDです。
テクニカルダイバーに愛用されていますが、レジャー用でもこのタイプは存在します。
器材を買い換えるなら、これが最も手っ取り早い解決策です。
今の器材のまま水平を目指すには?
「もうマイ器材を買っちゃったよ!」という方もご安心ください。
買い替えなくても調整は可能です。
浮力の中心(浮心)を動かすのは難しいですが、重さの中心(重心)は工夫次第で動かせます。
直立してしまう装備は、重心が足側に寄っています。
そこで、以下のような調整を試してみましょう。
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ウェイトポケットの活用: 腰だけでなく、タンクベルトや肩周りのポケットにウェイトを分散させる。
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上半身に重みを足す: ウェイトベストなどを使って、重心を頭側に移動させる。
この調整が完璧に決まると、面白いことが起きます。
フィンピボットができなくなる代わりに、息を吸うだけで体が水平のままふわ〜っと浮き上がるようになるのです。
今回のまとめ:水平トリムの真実
「いくら練習しても水平になれない…」それはスキルの問題ではなく、「物理」の問題かもしれません。
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姿勢は「重心と浮心」で決まる 水中で力が抜けたときに止まる姿勢(静的安定)は、個人の技術ではなく、器材の重さと浮力のバランスで決まってしまいます。
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標準装備は「直立」が正解 一般的な器材は、水面での安全や講習のしやすさを考え、あえて「直立」で安定するように設計されています。いわば「おきあがりこぼし」の状態です。
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上達の鍵は「物理を味方につける」こと 上級者はテクニックで無理やり物理に抗っていますが、最も楽なのは「力を抜けば勝手に水平になる」ようにセッティングを整えることです。
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ウェイトの位置で世界が変わる 今の器材のままでも、ウェイトを上半身側に分散させて重心を動かせば、驚くほど簡単に水平トリムは維持できるようになります。
「フィンピボットができないセッティング」こそが、実は理想の水平トリムへの第一歩です。物理の理屈がわかれば、ダイビングはもっと楽に、もっと楽しくなります!
「自分の器材をどう調整すればいいの?」と迷ったら、スキルアップ・プラクティスをぜひご利用ください。
皆さんが「水平トリムは簡単!」と思えるまで、器材調整にとことんお付き合いします!

